
訪問先で、ご家族にこう聞かれたことはありませんか。
「これ、また繰り返すんでしょうか」
新人看護師のシジ美ちゃんは、答えられませんでした。この記事では、事業所に戻った彼女が、先輩たちと一緒にその答えを探します。
この章で伝えたいこと
- 誤嚥性肺炎は、食べていなくても起きる
- 繰り返すのは、たまたまではない
- 戻せない部分と、手を入れられる部分がある
なぜそう言えるのか、順番に見ていきます。
この資料について
誤嚥性肺炎を三度繰り返しているラッ子さんのお宅で、新人看護師のシジ美ちゃんが答えられなかった質問があります。事業所に戻ってから、先輩たちと一緒に解いていきます。
なお、シジ美ちゃんはひとりで訪問していますが、実際の新人教育は同行訪問から始まります。ここでは読みやすさのために、ひとりで伺う場面として書いています。
ラッ子さんの家。定期の訪問日。

最近ね、お茶を飲むとむせるんですよ。年のせいだと思ってたんですけど。

そうなんですね。ラッ子さん、退院されたのって先月でしたよね。

そうそう。あれで三回目。またかって。息子に申し訳なくて、なんだか言い出せなくて。

口の中のケアは、言われたとおりやってるつもりなんですけどね。それでも三回目で。

入院してるあいだなんて、何も食べてなかったんですよ。点滴だけで。それなのに、また熱が出て。

先生は「よくあることです」って言うんですけどね。……これ、また繰り返すんでしょうか。

えっと……。
すみません、少し調べさせてください。次に伺うときまでに、お返事しますね。
(シジ美ちゃんの心の声)
なんでだろう。良くなって退院してきたはずなのに。
同じ日の夕方。事業所に戻って。

シャチ子さん。今日ラッ子さんのお宅で、また繰り返すんでしょうかって聞かれて。答えられませんでした。

いい質問をもらいましたね。順番に行きましょう。まず、誤嚥性肺炎がどうやって起きるかから。
起きる仕組みを、先に

誤嚥性肺炎は、唾液や食べ物、逆流した胃液を気管に飲み込んでしまって起きます。原因菌は肺炎球菌や、口の中にいる常在菌が多い。

口の中の菌が、肺に行くってことですか。

そうです。だいたい3つが重なると発症します。口の中が汚れて菌が増える。咳やのみこみの力が落ちて、その菌が気管から肺へ入る。そこに栄養状態や免疫の低下が加わる。

なるほど、菌・入り口・抵抗力の3つですね。
……あ、でも。マンボ郎さん、口の中のケアはやってるつもりだって言ってました。それでも三回目だって。

「やってるつもり」。そうおっしゃったんですね。

はい。何か、まずかったですか。

いいえ。ただ、そこはいちばん大事なところかもしれません。今日は置いておきましょう。

ずいぶん含みのある言い方するわね。

今答えると、たぶん浅くなるので。シジ美ちゃん、次の訪問で、実際に口の中を見せてもらってください。

ところでシジ美ちゃん。ラッ子さん、入院中のことで何かおっしゃっていませんでしたか。

あ、はい。入院中は何も食べていなかったのに、また熱が出たって。点滴だけだったのにって言ってました。

そこ、とても大事なところです。食べていなくても誤嚥性肺炎は起きます。唾液の誤嚥です。
しかも、むせないまま入っていくことが多い。これを不顕性誤嚥といいます。唾液による不顕性誤嚥が肺炎の発症に大きく関わる、と指摘されています。

むせないのに誤嚥って……それ、どうやって気づくんですか。

気づきにくいです。今は「むせていないから大丈夫、は成り立たない」。それだけ覚えておいてください。
「もう予防では追いつかない」段階

横から悪いけど。正直に言うわね。繰り返してる人って、もう予防でどうにかなる段階を越えてることがある。

えっ、それって……諦めるってことですか。

諦めろとは言ってない。でも「予防できます」って前提だけで話すと、ご家族にも嘘になるでしょ。三回目の人に一回目と同じ説明をして、通じると思う?

ウツボさんの実感を裏づける報告があります。繰り返す誤嚥性肺炎は、肺そのものに慢性の炎症を起こす、と。
動物モデルの肺と、誤嚥性肺炎で亡くなった方の剖検肺を解析したところ、慢性炎症の所見が観察された、という報告です。

……つまり、一回目の肺と三回目の肺は、同じ肺じゃないってことですか。

そう捉えるほうが実態に近いと思います。回数を重ねるほど、元の状態には戻りきらない。「繰り返す」は、同じことが起きているのではなくて、変化が積み重なっている。

……それ、マンボ郎さんに言えないです。お母さんの肺はもう戻りませんって、どうやって。
戻らない部分と、変えられる部分

そんな顔しない。私、諦めろなんて言ってないでしょ。
シャチ子さん。元には戻らないとして、今の状態を保つとか、これ以上悪くしないために気をつけることは、あるんでしょう。

あります。むしろ、戻らない部分があるからこそ、変えられる要因を探す価値がある。分かりやすいのはお薬です。
一部の精神科のお薬に、飲み込む力と、むせる力を弱くしてしまう働きがあります。

お薬で、飲み込みがですか。

はい。のどの奥は、食べ物が触れたら勝手に飲み込む、間違えたらむせる、という反射で守られています。その反射のスイッチを入れている物質が、薬の作用で減ってしまうことがある。

スイッチが入りにくくなる、みたいなことですか。

近いです。専門的にはサブスタンスPという物質で、抗精神病薬がドパミンを抑えると、連動して減ってしまう。名前は覚えなくて大丈夫です。「薬で反射が鈍る経路がある」、そこだけ覚えておいてください。

それと、便秘を通じて胃からの逆流が増え、それが誤嚥につながるという推測もあります。お通じの話も、無関係ではないということです。

マンボ郎さんに「その薬やめられないんですか」って聞かれたら、どう答えたらいいんでしょう。

やめられるかどうかは、私たちには決められません。処方は主治医の領域です。
ただ「今飲んでいるお薬が、飲み込みに影響しているかもしれません」とお伝えすることはできます。

そこよ。看護師が薬を止めるんじゃない。気づいて、判断の材料を医師に渡す。それが私たちの仕事。

……あ。ラッ子さん、日中うとうとするのは年のせいだと思ってるって、前に言ってました。

それ、次の訪問で必ず拾ってください。ご本人が「先生に言うほどでもない」と思っていることほど、大事だったりします。
シジ美ちゃんの、今日の学び
- 誤嚥性肺炎は、菌・入り口・抵抗力の3つが重なって起きる。食べていなくても、唾液で起きる
- 繰り返しは反復ではない。肺に慢性の炎症が積み重なる過程で、元には戻りきらない
- 戻らない部分があるからこそ、変えられる要因を探す。薬はその代表で、看護師は気づいて材料を渡す立場にいる
ただ、解けないままの問いがひとつ残った。
——むせていないのに誤嚥している。それは、どうやって気づけばいいのか。
この章のQ&A
Q. 機序は分かりました。でも、うちの利用者さんは何が原因なんでしょうか。
一人ひとり違いますし、たいてい一つではありません。ただ、確認する順番はあります。口の中の状態、食事の姿勢と形態、飲んでいるお薬、栄養状態、そして全身の活動性。この5つのうち、どれが最近変わったかから入ると当たりやすいです。「もともと悪い」ものより「最近変わった」もののほうが、手を入れられる可能性が高いからです。
Q. 口腔・姿勢・薬剤・全身状態と並べられても、自分の判断で手を出せるのは姿勢くらいでは。
そのとおりです。この章に出てきた要因のうち、訪問看護がその場で変えられるものは限られています。ただ、変えられないことと、気づかなくていいことは別です。薬は医師に、食形態は歯科やSTに、栄養は管理栄養士やケアマネに。誰に渡すかを知っていることが、この章の実用的な結論になります。

誤嚥性肺炎は、食べていなくても起きる。そして、繰り返すたびに肺は変わっていく。重い話でしたが、だからこそ「変えられる要因」を探す意味があります。
次回は、その「変えられる要因」に気づくための話です。バイタルは正常。でも、なんとなくいつもと違う。そんなときに何を見るか。
第2章「訪問で何を見るか」でお会いしましょう。

※ 登場人物はすべて架空です。特定の利用者・ご家族をモデルにしたものではありません。
※ 本章の医学的記述は、下記の資料に基づいています。個別の判断は主治医にご確認ください。
※ 個別のご相談にはお答えできません。担当の主治医・訪問看護師にご相談ください。
参考にした資料
Okazaki T, Izumi S. 繰り返す誤嚥性肺炎に対するリハビリテーション医療. Jpn J Rehabil Med. 2023;60:108-113.
大阪国際がんセンター 臨床栄養委員会「誤嚥性肺炎を防ぐ 摂食・嚥下ケアと口腔ケア」
大野綾・大野友久・藤島一郎「意識障害患者の嚥下・口腔ケア」BRAIN 2011;1(4)
