食べ方を、どう整えるか|訪問看護のための病態のはなし #7

誤嚥性肺炎
ツナ太郎
ツナ太郎

とろみの濃さが毎回違う。そう言われて、自分のせいだと思っているご家族がいます。

でも、ずれるのには理由があります。今回は、食べ方を家で整える話です。

この章で伝えたいこと

  • とろみは量ではなく、濃さの段階で伝える
  • 飲まれなくなったとろみは、肺炎に近づく
  • 姿勢はその場で直せる。横に座るだけでいい

なぜそう言えるのか、順番に見ていきます。

この資料について

訪問看護の現場でよくある場面を、会話形式でまとめた学習用の読み物です。登場人物はすべて架空です。

なお、新人看護師のシジ美ちゃんはひとりで訪問していますが、実際の新人教育は同行訪問から始まります。ここでは読みやすさのために、ひとりで伺う場面として書いています。


翌週。ラッ子さんの家。ちょうど昼食の時間にあたった。

ラッ子
ラッ子

あのね、お茶が、おいしくないんですよ。

シジ美
シジ美

とろみ、ですか。

ラッ子
ラッ子

ええ。だからね、あんまり飲まないようにしてるんです。

マンボ郎
マンボ郎

それも困ってて。濃さが毎回違うって、前に言われたんですけど。

マンボ郎
マンボ郎

缶に書いてある通りに入れてるつもりなんですよ。それでも違うって言われる。

マンボ郎さんは立ったまま、スプーンを口元へ運ぶ。

ラッ子さんは、それを見上げるようにして口を開けた。

シジ美
シジ美

……。

(シジ美ちゃんの心の声)

何か気になった。でも、何が気になったのか分からない。


事業所に戻って。

シジ美
シジ美

マンボ郎さん、缶の通りに入れてるって言ってました。それでも毎回違うって言われるって。

ウツボ
ウツボ

それね。あの人がずぼらなんじゃないの。 ちゃんとやろうとして、ずれるの。

シジ美
シジ美

どうしてですか。

とろみは「量」ではなく「濃さ」で伝える

シャチ子
シャチ子

理由が3つあります。1つめ、温度。温かい飲みものは、とろみがゆるく見えます。

熱いうちに「薄い」と思って足すと、飲む温度になったときには濃くなりすぎている。

シジ美
シジ美

あ……それ、やりそうです。

シャチ子
シャチ子

2つめ、つくまでの時間。牛乳や果汁、味噌汁は、とろみがつくのに時間がかかります。直後はゆるくても、数分でしっかりつく。

3つめ、足し方。とろみのついた液体に、直接とろみ材を足すとダマになります。

シジ美
シジ美

濃すぎたときはどうすれば。

シャチ子
シャチ子

飲みもので薄める。薄すぎたときは、濃くつけたものを混ぜる。あとから粉を入れない。

シジ美
シジ美

じゃあ、何グラムって決めれば解決しますか。

シャチ子
シャチ子

それが難しいところです。とろみ材は製品ごとに、同じ量でも濃さが変わります。

シジ美
シジ美

えっ。じゃあ「小さじ1杯」って申し送っても。

シャチ子
シャチ子

別の製品を使っている家では、まったく違う濃さになります。

だから伝えるのは量ではなく、濃さの段階。 薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみ。この3段階が共通の言葉として決まっています。

量は、その家で使っている製品の表に従ってもらう。申し送りに書くのは段階のほうです。

ウツボ
ウツボ

それ、マンボ郎さんに伝えてあげて。あの人、自分のせいだと思ってるから。

飲まなくなったら、元も子もない

ウツボ
ウツボ

それと、さっきのラッ子さんの話。「おいしくないから飲まない」。あれ、放っておいちゃだめよ。

シジ美
シジ美

とろみをつけたのに、飲まなくなったら……。

ウツボ
ウツボ

脱水よ。で、口の中が乾く。乾いたら菌が増える。

シジ美
シジ美

……あ。口腔ケアのときの。

※ 第3章

ウツボ
ウツボ

そう。肺炎を防ぐためにつけたとろみで、肺炎に近づくの。

シジ美
シジ美

本末転倒じゃないですか。

ウツボ
ウツボ

だからね、「飲めてますか」じゃなくて「一日にどれくらい飲めてますか」って聞くの。量で聞く。

シャチ子
シャチ子

飲みものを変えてみるのも手です。お茶がだめでも、他のものなら飲めることがあります。

それでも進まないなら、とろみの段階そのものを見直せないか、主治医や歯科、言語聴覚士に相談します。

ウツボ
ウツボ

とろみは手段であって、目的じゃないからね。

姿勢は、その場で変えられる

シャチ子
シャチ子

シジ美ちゃん。さっき「何か気になった」と言っていましたね。マンボ郎さんは、どんな姿勢で介助していましたか。

シジ美
シジ美

……立ってました。立ったまま、スプーンを持って。

シャチ子
シャチ子

ラッ子さんは。

シジ美
シジ美

見上げるみたいにして、口を開けて……あ。

シャチ子
シャチ子

気づきましたね。見上げると、顎が上がります。 顎が上がった状態は、誤嚥しやすい姿勢です。

シジ美
シジ美

それが気になってたんだ。

シャチ子
シャチ子

介助する人は、必ず横に座る。 それだけで目線が同じになって、顎が引けます。

ウツボ
ウツボ

スプーンもね。正面からまっすぐ入れて、舌の真ん中に置く。口を閉じてもらってから、やや上向きに引き抜く。

麻痺がある方は、麻痺していない側から入れる。

シジ美
シジ美

そんな細かいところまで。

ウツボ
ウツボ

細かいけど、その場でできることでしょ。 私たちが手を出せるのは、そういうところなの。

シャチ子
シャチ子

ベッドで起こしているときも同じです。背もたれを倒した姿勢なら、顎が上がっていないかを見てください。

食べる力を保つ

シャチ子
シャチ子

最後にひとつ。口を開ける訓練が紹介されています。

シジ美
シジ美

口を開けるだけ、ですか。

シャチ子
シャチ子

10秒間、本気で開けて、10秒休む。それを5回で1セット。1日2セットです。

のどを持ち上げる筋肉に働きかけます。開ける力が弱ってきていると、飲み込む力も落ちている可能性があります。

シジ美
シジ美

訓練って、専門の人がやるものだと思ってました。

シャチ子
シャチ子

これは家でもできます。ただ、状態によっては向かないので、始める前に主治医や歯科に相談してください。

シジ美
シジ美

分かりました。

シャチ子
シャチ子

それともうひとつ。体調も飲み込みも両方悪いときは、まず口とのどのケアで、誤嚥性肺炎にならない全身状態を保つ。 そのうえで体調の回復を待つ、という順番があります。

シジ美
シジ美

……また、口の中の話に戻るんですね。

※ 第3章

シャチ子
シャチ子

そうです。食べ方の話も、結局そこにつながります。


シジ美ちゃんの、今日の学び

  1. とろみは量ではなく濃さで伝える。 製品が違えば、同じ量でも濃さは変わる
  2. 飲まれなくなったら本末転倒。 脱水と口腔乾燥を招き、かえって肺炎に近づく
  3. 姿勢はその場で直せる。 介助する人が横に座るだけで、顎が引ける

帰り道、ふと思った。

——次の訪問まで、あの家の数日を、私は何も見ていない。


この章のQ&A

Q. とろみをつけた結果、食事量が減って痩せてきました。どうすればいいですか。

とろみを続けるかどうかを、見直す対象にしていいということです。とろみは決定事項ではありません。

まず、痩せた理由を分けます。とろみが嫌で食べないのか。量そのものが減っているのか。食べるのに疲れて途中でやめているのか。 対応が変わります。

嫌なら、味や製品を変えられないか。疲れるなら、回数を分けられないか。そのうえで、とろみの段階そのものを見直せないかを、主治医や歯科、言語聴覚士に相談します。

安全のためにやっていることで痩せていくなら、それは安全になっていません。 誤嚥を減らしたはずが、体力を落として誤嚥しやすくしている。この逆転は、現場でよく起こります。

Q. 訪問の時間帯に食事をしていない家のほうが多いのですが、姿勢や介助はどう確認すればいいですか。

見られないほうが普通です。だから痕跡と、聞き方で補います。

痕跡は、椅子とテーブルの高さ、ベッドの角度、食器の置き場所。「いつもどこで、どんな格好で食べていますか」を、実際に座って再現してもらうのが一番早いです。5分もかかりません。

聞き方は、「介助はどなたが」「そのとき、どこに立って(座って)いますか」。立っているかどうかは、聞かないと出てきません。 ご家族にとっては当たり前の光景なので、問題として報告されないからです。

Q. 何度伝えても、姿勢や作り方が元に戻ってしまいます。

元に戻るのは、伝わっていないからではなく、続かない形だからです。

見直すのは3つ。変更点が多すぎないか(一度に一つに絞れているか)。その家の動線に合っているか(横に座る椅子が、そこにあるか)。誰にも見えていないのではないか(できているかどうか、次に入る人が確認しているか)。

そして、続いていないことをご家族の前で問題にしない。 環境の問題として一緒に見ると、話が続きます。


ツナ太郎
ツナ太郎

次回は、私たちがいない数日間の話です。「何かあったら連絡してください」と伝えて、その先で何が起きたか。

ご家族に何を渡すのか。熱を測ってもらうだけでは、足りません。

家族に、何を渡すか|訪問看護のための病態のはなし #8
「何かあったら連絡してください」——その「何か」を、ご家族は知っているでしょうか。熱を渡すと熱しか見なくなります。観察項目と同じだけ、連絡していいという許可を渡す話です。

※ 登場人物はすべて架空です。特定の利用者・ご家族をモデルにしたものではありません。

※ 医学的記述は参考資料に基づいています。個別の判断は主治医にご確認ください。

※ とろみの段階や訓練の導入は、主治医・歯科・言語聴覚士の指示のもとで行ってください。

※ 個別のご相談にはお答えできません。担当の主治医・訪問看護師にご相談ください。

参考にした資料

  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021」
  • ニュートリー enge.jp「とろみのつけ方を知ろう!」
  • 大阪国際がんセンター 臨床栄養委員会「誤嚥性肺炎を防ぐ 摂食・嚥下ケアと口腔ケア」
  • 戸原玄「食べられるかどうかの見極め 〜家でもできる摂食・嚥下機能評価〜」PDN, 2023改訂

※ とろみの段階に関する記述は『日摂食嚥下リハ会誌 25(2):135–149, 2021』および日本摂食嚥下リハビリテーション学会『嚥下調整食学会分類2021』を参照しています。

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