
とろみの濃さが毎回違う。そう言われて、自分のせいだと思っているご家族がいます。
でも、ずれるのには理由があります。今回は、食べ方を家で整える話です。
この章で伝えたいこと
- とろみは量ではなく、濃さの段階で伝える
- 飲まれなくなったとろみは、肺炎に近づく
- 姿勢はその場で直せる。横に座るだけでいい
なぜそう言えるのか、順番に見ていきます。
この資料について
訪問看護の現場でよくある場面を、会話形式でまとめた学習用の読み物です。登場人物はすべて架空です。
なお、新人看護師のシジ美ちゃんはひとりで訪問していますが、実際の新人教育は同行訪問から始まります。ここでは読みやすさのために、ひとりで伺う場面として書いています。
翌週。ラッ子さんの家。ちょうど昼食の時間にあたった。

あのね、お茶が、おいしくないんですよ。

とろみ、ですか。

ええ。だからね、あんまり飲まないようにしてるんです。

それも困ってて。濃さが毎回違うって、前に言われたんですけど。

缶に書いてある通りに入れてるつもりなんですよ。それでも違うって言われる。
マンボ郎さんは立ったまま、スプーンを口元へ運ぶ。
ラッ子さんは、それを見上げるようにして口を開けた。

……。
(シジ美ちゃんの心の声)
何か気になった。でも、何が気になったのか分からない。
事業所に戻って。

マンボ郎さん、缶の通りに入れてるって言ってました。それでも毎回違うって言われるって。

それね。あの人がずぼらなんじゃないの。 ちゃんとやろうとして、ずれるの。

どうしてですか。
とろみは「量」ではなく「濃さ」で伝える

理由が3つあります。1つめ、温度。温かい飲みものは、とろみがゆるく見えます。
熱いうちに「薄い」と思って足すと、飲む温度になったときには濃くなりすぎている。

あ……それ、やりそうです。

2つめ、つくまでの時間。牛乳や果汁、味噌汁は、とろみがつくのに時間がかかります。直後はゆるくても、数分でしっかりつく。
3つめ、足し方。とろみのついた液体に、直接とろみ材を足すとダマになります。

濃すぎたときはどうすれば。

飲みもので薄める。薄すぎたときは、濃くつけたものを混ぜる。あとから粉を入れない。

じゃあ、何グラムって決めれば解決しますか。

それが難しいところです。とろみ材は製品ごとに、同じ量でも濃さが変わります。

えっ。じゃあ「小さじ1杯」って申し送っても。

別の製品を使っている家では、まったく違う濃さになります。
だから伝えるのは量ではなく、濃さの段階。 薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみ。この3段階が共通の言葉として決まっています。
量は、その家で使っている製品の表に従ってもらう。申し送りに書くのは段階のほうです。

それ、マンボ郎さんに伝えてあげて。あの人、自分のせいだと思ってるから。
飲まなくなったら、元も子もない

それと、さっきのラッ子さんの話。「おいしくないから飲まない」。あれ、放っておいちゃだめよ。

とろみをつけたのに、飲まなくなったら……。

脱水よ。で、口の中が乾く。乾いたら菌が増える。

……あ。口腔ケアのときの。
※ 第3章

そう。肺炎を防ぐためにつけたとろみで、肺炎に近づくの。

本末転倒じゃないですか。

だからね、「飲めてますか」じゃなくて「一日にどれくらい飲めてますか」って聞くの。量で聞く。

飲みものを変えてみるのも手です。お茶がだめでも、他のものなら飲めることがあります。
それでも進まないなら、とろみの段階そのものを見直せないか、主治医や歯科、言語聴覚士に相談します。

とろみは手段であって、目的じゃないからね。
姿勢は、その場で変えられる

シジ美ちゃん。さっき「何か気になった」と言っていましたね。マンボ郎さんは、どんな姿勢で介助していましたか。

……立ってました。立ったまま、スプーンを持って。

ラッ子さんは。

見上げるみたいにして、口を開けて……あ。

気づきましたね。見上げると、顎が上がります。 顎が上がった状態は、誤嚥しやすい姿勢です。

それが気になってたんだ。

介助する人は、必ず横に座る。 それだけで目線が同じになって、顎が引けます。

スプーンもね。正面からまっすぐ入れて、舌の真ん中に置く。口を閉じてもらってから、やや上向きに引き抜く。
麻痺がある方は、麻痺していない側から入れる。

そんな細かいところまで。

細かいけど、その場でできることでしょ。 私たちが手を出せるのは、そういうところなの。

ベッドで起こしているときも同じです。背もたれを倒した姿勢なら、顎が上がっていないかを見てください。
食べる力を保つ

最後にひとつ。口を開ける訓練が紹介されています。

口を開けるだけ、ですか。

10秒間、本気で開けて、10秒休む。それを5回で1セット。1日2セットです。
のどを持ち上げる筋肉に働きかけます。開ける力が弱ってきていると、飲み込む力も落ちている可能性があります。

訓練って、専門の人がやるものだと思ってました。

これは家でもできます。ただ、状態によっては向かないので、始める前に主治医や歯科に相談してください。

分かりました。

それともうひとつ。体調も飲み込みも両方悪いときは、まず口とのどのケアで、誤嚥性肺炎にならない全身状態を保つ。 そのうえで体調の回復を待つ、という順番があります。

……また、口の中の話に戻るんですね。
※ 第3章

そうです。食べ方の話も、結局そこにつながります。
シジ美ちゃんの、今日の学び
- とろみは量ではなく濃さで伝える。 製品が違えば、同じ量でも濃さは変わる
- 飲まれなくなったら本末転倒。 脱水と口腔乾燥を招き、かえって肺炎に近づく
- 姿勢はその場で直せる。 介助する人が横に座るだけで、顎が引ける
帰り道、ふと思った。
——次の訪問まで、あの家の数日を、私は何も見ていない。
この章のQ&A
Q. とろみをつけた結果、食事量が減って痩せてきました。どうすればいいですか。
とろみを続けるかどうかを、見直す対象にしていいということです。とろみは決定事項ではありません。
まず、痩せた理由を分けます。とろみが嫌で食べないのか。量そのものが減っているのか。食べるのに疲れて途中でやめているのか。 対応が変わります。
嫌なら、味や製品を変えられないか。疲れるなら、回数を分けられないか。そのうえで、とろみの段階そのものを見直せないかを、主治医や歯科、言語聴覚士に相談します。
安全のためにやっていることで痩せていくなら、それは安全になっていません。 誤嚥を減らしたはずが、体力を落として誤嚥しやすくしている。この逆転は、現場でよく起こります。
Q. 訪問の時間帯に食事をしていない家のほうが多いのですが、姿勢や介助はどう確認すればいいですか。
見られないほうが普通です。だから痕跡と、聞き方で補います。
痕跡は、椅子とテーブルの高さ、ベッドの角度、食器の置き場所。「いつもどこで、どんな格好で食べていますか」を、実際に座って再現してもらうのが一番早いです。5分もかかりません。
聞き方は、「介助はどなたが」「そのとき、どこに立って(座って)いますか」。立っているかどうかは、聞かないと出てきません。 ご家族にとっては当たり前の光景なので、問題として報告されないからです。
Q. 何度伝えても、姿勢や作り方が元に戻ってしまいます。
元に戻るのは、伝わっていないからではなく、続かない形だからです。
見直すのは3つ。変更点が多すぎないか(一度に一つに絞れているか)。その家の動線に合っているか(横に座る椅子が、そこにあるか)。誰にも見えていないのではないか(できているかどうか、次に入る人が確認しているか)。
そして、続いていないことをご家族の前で問題にしない。 環境の問題として一緒に見ると、話が続きます。

次回は、私たちがいない数日間の話です。「何かあったら連絡してください」と伝えて、その先で何が起きたか。
ご家族に何を渡すのか。熱を測ってもらうだけでは、足りません。

※ 登場人物はすべて架空です。特定の利用者・ご家族をモデルにしたものではありません。
※ 医学的記述は参考資料に基づいています。個別の判断は主治医にご確認ください。
※ とろみの段階や訓練の導入は、主治医・歯科・言語聴覚士の指示のもとで行ってください。
※ 個別のご相談にはお答えできません。担当の主治医・訪問看護師にご相談ください。
参考にした資料
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食学会分類2021」
- ニュートリー enge.jp「とろみのつけ方を知ろう!」
- 大阪国際がんセンター 臨床栄養委員会「誤嚥性肺炎を防ぐ 摂食・嚥下ケアと口腔ケア」
- 戸原玄「食べられるかどうかの見極め 〜家でもできる摂食・嚥下機能評価〜」PDN, 2023改訂
※ とろみの段階に関する記述は『日摂食嚥下リハ会誌 25(2):135–149, 2021』および日本摂食嚥下リハビリテーション学会『嚥下調整食学会分類2021』を参照しています。

