誤嚥性肺炎は、なぜ繰り返すのか|訪問看護のための病態のはなし #1

誤嚥性肺炎
ツナ太郎
ツナ太郎

訪問先で、ご家族にこう聞かれたことはありませんか。

「これ、また繰り返すんでしょうか」

新人看護師のシジ美ちゃんは、答えられませんでした。この記事では、事業所に戻った彼女が、先輩たちと一緒にその答えを探します。

この章で伝えたいこと

  • 誤嚥性肺炎は、食べていなくても起きる
  • 繰り返すのは、たまたまではない
  • 戻せない部分と、手を入れられる部分がある

なぜそう言えるのか、順番に見ていきます。

この資料について

誤嚥性肺炎を三度繰り返しているラッ子さんのお宅で、新人看護師のシジ美ちゃんが答えられなかった質問があります。事業所に戻ってから、先輩たちと一緒に解いていきます。

なお、シジ美ちゃんはひとりで訪問していますが、実際の新人教育は同行訪問から始まります。ここでは読みやすさのために、ひとりで伺う場面として書いています。


ラッ子さんの家。定期の訪問日。

ラッ子
ラッ子

最近ね、お茶を飲むとむせるんですよ。年のせいだと思ってたんですけど。

シジ美
シジ美

そうなんですね。ラッ子さん、退院されたのって先月でしたよね。

ラッ子
ラッ子

そうそう。あれで三回目。またかって。息子に申し訳なくて、なんだか言い出せなくて。

マンボ郎
マンボ郎

口の中のケアは、言われたとおりやってるつもりなんですけどね。それでも三回目で。

ラッ子
ラッ子

入院してるあいだなんて、何も食べてなかったんですよ。点滴だけで。それなのに、また熱が出て。

マンボ郎
マンボ郎

先生は「よくあることです」って言うんですけどね。……これ、また繰り返すんでしょうか。

シジ美
シジ美

えっと……。

すみません、少し調べさせてください。次に伺うときまでに、お返事しますね。

(シジ美ちゃんの心の声)

なんでだろう。良くなって退院してきたはずなのに。


同じ日の夕方。事業所に戻って。

シジ美
シジ美

シャチ子さん。今日ラッ子さんのお宅で、また繰り返すんでしょうかって聞かれて。答えられませんでした。

シャチ子
シャチ子

いい質問をもらいましたね。順番に行きましょう。まず、誤嚥性肺炎がどうやって起きるかから。

起きる仕組みを、先に

シャチ子
シャチ子

誤嚥性肺炎は、唾液や食べ物、逆流した胃液を気管に飲み込んでしまって起きます。原因菌は肺炎球菌や、口の中にいる常在菌が多い。

シジ美
シジ美

口の中の菌が、肺に行くってことですか。

シャチ子
シャチ子

そうです。だいたい3つが重なると発症します。口の中が汚れて菌が増える。咳やのみこみの力が落ちて、その菌が気管から肺へ入る。そこに栄養状態や免疫の低下が加わる。

シジ美
シジ美

なるほど、菌・入り口・抵抗力の3つですね。

……あ、でも。マンボ郎さん、口の中のケアはやってるつもりだって言ってました。それでも三回目だって。

シャチ子
シャチ子

「やってるつもり」。そうおっしゃったんですね。

シジ美
シジ美

はい。何か、まずかったですか。

シャチ子
シャチ子

いいえ。ただ、そこはいちばん大事なところかもしれません。今日は置いておきましょう。

ウツボ
ウツボ

ずいぶん含みのある言い方するわね。

シャチ子
シャチ子

今答えると、たぶん浅くなるので。シジ美ちゃん、次の訪問で、実際に口の中を見せてもらってください。

シャチ子
シャチ子

ところでシジ美ちゃん。ラッ子さん、入院中のことで何かおっしゃっていませんでしたか。

シジ美
シジ美

あ、はい。入院中は何も食べていなかったのに、また熱が出たって。点滴だけだったのにって言ってました。

シャチ子
シャチ子

そこ、とても大事なところです。食べていなくても誤嚥性肺炎は起きます。唾液の誤嚥です。

しかも、むせないまま入っていくことが多い。これを不顕性誤嚥といいます。唾液による不顕性誤嚥が肺炎の発症に大きく関わる、と指摘されています。

シジ美
シジ美

むせないのに誤嚥って……それ、どうやって気づくんですか。

シャチ子
シャチ子

気づきにくいです。今は「むせていないから大丈夫、は成り立たない」。それだけ覚えておいてください。

「もう予防では追いつかない」段階

ウツボ
ウツボ

横から悪いけど。正直に言うわね。繰り返してる人って、もう予防でどうにかなる段階を越えてることがある。

シジ美
シジ美

えっ、それって……諦めるってことですか。

ウツボ
ウツボ

諦めろとは言ってない。でも「予防できます」って前提だけで話すと、ご家族にも嘘になるでしょ。三回目の人に一回目と同じ説明をして、通じると思う?

シャチ子
シャチ子

ウツボさんの実感を裏づける報告があります。繰り返す誤嚥性肺炎は、肺そのものに慢性の炎症を起こす、と。

動物モデルの肺と、誤嚥性肺炎で亡くなった方の剖検肺を解析したところ、慢性炎症の所見が観察された、という報告です。

シジ美
シジ美

……つまり、一回目の肺と三回目の肺は、同じ肺じゃないってことですか。

シャチ子
シャチ子

そう捉えるほうが実態に近いと思います。回数を重ねるほど、元の状態には戻りきらない。「繰り返す」は、同じことが起きているのではなくて、変化が積み重なっている。

シジ美
シジ美

……それ、マンボ郎さんに言えないです。お母さんの肺はもう戻りませんって、どうやって。

戻らない部分と、変えられる部分

ウツボ
ウツボ

そんな顔しない。私、諦めろなんて言ってないでしょ。

シャチ子さん。元には戻らないとして、今の状態を保つとか、これ以上悪くしないために気をつけることは、あるんでしょう。

シャチ子
シャチ子

あります。むしろ、戻らない部分があるからこそ、変えられる要因を探す価値がある。分かりやすいのはお薬です。

一部の精神科のお薬に、飲み込む力と、むせる力を弱くしてしまう働きがあります。

シジ美
シジ美

お薬で、飲み込みがですか。

シャチ子
シャチ子

はい。のどの奥は、食べ物が触れたら勝手に飲み込む、間違えたらむせる、という反射で守られています。その反射のスイッチを入れている物質が、薬の作用で減ってしまうことがある。

シジ美
シジ美

スイッチが入りにくくなる、みたいなことですか。

シャチ子
シャチ子

近いです。専門的にはサブスタンスPという物質で、抗精神病薬がドパミンを抑えると、連動して減ってしまう。名前は覚えなくて大丈夫です。「薬で反射が鈍る経路がある」、そこだけ覚えておいてください。

シャチ子
シャチ子

それと、便秘を通じて胃からの逆流が増え、それが誤嚥につながるという推測もあります。お通じの話も、無関係ではないということです。

シジ美
シジ美

マンボ郎さんに「その薬やめられないんですか」って聞かれたら、どう答えたらいいんでしょう。

シャチ子
シャチ子

やめられるかどうかは、私たちには決められません。処方は主治医の領域です。

ただ「今飲んでいるお薬が、飲み込みに影響しているかもしれません」とお伝えすることはできます。

ウツボ
ウツボ

そこよ。看護師が薬を止めるんじゃない。気づいて、判断の材料を医師に渡す。それが私たちの仕事。

シジ美
シジ美

……あ。ラッ子さん、日中うとうとするのは年のせいだと思ってるって、前に言ってました。

シャチ子
シャチ子

それ、次の訪問で必ず拾ってください。ご本人が「先生に言うほどでもない」と思っていることほど、大事だったりします。


シジ美ちゃんの、今日の学び

  1. 誤嚥性肺炎は、菌・入り口・抵抗力の3つが重なって起きる。食べていなくても、唾液で起きる
  2. 繰り返しは反復ではない。肺に慢性の炎症が積み重なる過程で、元には戻りきらない
  3. 戻らない部分があるからこそ、変えられる要因を探す。薬はその代表で、看護師は気づいて材料を渡す立場にいる

ただ、解けないままの問いがひとつ残った。

——むせていないのに誤嚥している。それは、どうやって気づけばいいのか。


この章のQ&A

Q. 機序は分かりました。でも、うちの利用者さんは何が原因なんでしょうか。

一人ひとり違いますし、たいてい一つではありません。ただ、確認する順番はあります。口の中の状態、食事の姿勢と形態、飲んでいるお薬、栄養状態、そして全身の活動性。この5つのうち、どれが最近変わったかから入ると当たりやすいです。「もともと悪い」ものより「最近変わった」もののほうが、手を入れられる可能性が高いからです。

Q. 口腔・姿勢・薬剤・全身状態と並べられても、自分の判断で手を出せるのは姿勢くらいでは。

そのとおりです。この章に出てきた要因のうち、訪問看護がその場で変えられるものは限られています。ただ、変えられないことと、気づかなくていいことは別です。薬は医師に、食形態は歯科やSTに、栄養は管理栄養士やケアマネに。誰に渡すかを知っていることが、この章の実用的な結論になります。


ツナ太郎
ツナ太郎

誤嚥性肺炎は、食べていなくても起きる。そして、繰り返すたびに肺は変わっていく。重い話でしたが、だからこそ「変えられる要因」を探す意味があります。

次回は、その「変えられる要因」に気づくための話です。バイタルは正常。でも、なんとなくいつもと違う。そんなときに何を見るか。

第2章「訪問で何を見るか」でお会いしましょう。

訪問で何を見るか — 「いつもと違う」を分解する|訪問看護のための病態のはなし #2
バイタルは正常。でも、なんとなくいつもと違う。その「なんとなく」を、報告できる言葉に分解します。数字は基準値ではなく、その人のいつもと比べる。

※ 登場人物はすべて架空です。特定の利用者・ご家族をモデルにしたものではありません。

※ 本章の医学的記述は、下記の資料に基づいています。個別の判断は主治医にご確認ください。

※ 個別のご相談にはお答えできません。担当の主治医・訪問看護師にご相談ください。

参考にした資料

Okazaki T, Izumi S. 繰り返す誤嚥性肺炎に対するリハビリテーション医療. Jpn J Rehabil Med. 2023;60:108-113.
大阪国際がんセンター 臨床栄養委員会「誤嚥性肺炎を防ぐ 摂食・嚥下ケアと口腔ケア」
大野綾・大野友久・藤島一郎「意識障害患者の嚥下・口腔ケア」BRAIN 2011;1(4)

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