
「もう食べないほうがいいですよね」。訪問先で、いちばんよく聞かれる相談かもしれません。
今回はその問いに、正面から答えます。止めれば、本当に安全になるのか。
この章で伝えたいこと
- 止めても誤嚥はなくならない。減るのは食事による誤嚥だけ
- 食べられるかを見る目安はある。ただし白黒をつける道具ではない
- 食べるか止めるかを決めるのは、私たちではない
なぜそう言えるのか、順番に見ていきます。
この資料について
訪問看護の現場でよくある場面を、会話形式でまとめた学習用の読み物です。登場人物はすべて架空です。
なお、新人看護師のシジ美ちゃんはひとりで訪問していますが、実際の新人教育は同行訪問から始まります。ここでは読みやすさのために、ひとりで伺う場面として書いています。
ひと月後。ラッ子さんは肺炎まではいかずに持ちこたえ、家で過ごしている。

あのね、お団子は、もう食べたらいけないんでしょうかね。

お団子、ですか。

孫が来たときにね、一緒に食べるのが楽しみだったもんですから。

やめたほうがいいですよね。詰まったりしたら、それこそ大変ですし。

……まあ、本人の前で言うことじゃないんでしょうけど。

いいんですよ。分かってますから。

……ええと。先生に確認してからのほうが、いいと思います。
(シジ美ちゃんの心の声)
止めたほうが安全なのは分かる。
でも、それを私が言っていいんだろうか。
事業所に戻って。

シャチ子さん。お団子はやめたほうがいいですよね。詰まったら大変ですし。

その判断が正しいこともあります。ただ、ひとつ聞かせてください。
止めたら、それで安全になりますか。

……えっ。食べなければ、誤嚥はしないんじゃ。

前にお話ししましたよね。ラッ子さんは入院中、何も食べていないのに熱が出ました。

……唾液。

そうです。食べるのを止めても、誤嚥はなくなりません。 減るのは、食事による誤嚥だけです。

そのうえ食べなくなると痩せる。痩せると力が落ちる。力が落ちると、もっとむせるようになる。
私、何人も見てきたわよ。安全のために止めて、そのまま弱っていった人。

……守ったつもりで、奪っちゃってたかもしれないんですね。

だから、問いを2つに分けます。
ひとつ、止めたら本当に安全になるのか。 もうひとつ、仮に安全になるとして、それでよいのか。
食べられるかどうかを、何で見るか

じゃあ、食べていいかどうかって、どうやって決めるんですか。

大きくは2つ挙げられています。目が覚めているかと、栄養状態が極端に悪くないか。

シンプルなんですね。

細かく見ると、もう少しあります。簡単な刺激で目を覚ますか。声がきれいに出るか。唾をゴクンと飲めるか。
それと、痰が常時出続けていないか。異常な頻脈や発熱がないか。

全部そろってないと、だめですか。

いいえ。そろっていないと評価できない、という意味ではありません。 そろっているほうが先へ進みやすい、という目安です。

条件を並べられると「該当しないから無理」って結論にしがちなのよ。そうじゃないからね。
家でもできる評価がある

簡単なものを2つ紹介します。ひとつは、30秒間で唾を何回飲み込めるかを見るもの。

数えるだけ、ですか。

喉仏に指を当てて、上下する回数を数えます。30秒で3回以上飲めれば、誤嚥の可能性は低いとされています。
道具が要らず、ご家族がやっても危険がありません。 そこが利点です。

弱点はありますか。

「飲んでください」の指示が伝わらない方には実施できません。認知症が進んだ方などですね。
もうひとつは、少量の水を飲んでもらうもの。むせ、声がガラガラにならないか、呼吸が変わらないか、ゼーゼーいわないかを見ます。

念のため言っておくけど、これで白黒つくわけじゃないからね。 疑ったら次につなぐ、そのための入口よ。

そのとおりです。ちなみに、むせないタイプの誤嚥を調べる咳テストという方法もありますが、器材と実施体制が要ります。
訪問看護が独自に始めるものではありません。疑ったら、評価できる先につなぐ。 そこが現実的な立ち位置です。
それで、お団子は

それで、ラッ子さんのお団子は。

それは、私たちが決めることではありません。

えっ。

私たちができるのは、危険がどれくらいあるかを伝えることと、少しでも安全に食べる方法を一緒に考えることです。
小さく切る。飲みものと交互にする。誰かがそばにいる時間に食べる。座って、顎を引いて。

「食べちゃだめ」って言うのは簡単なのよ。でもそれ言った瞬間、次から相談してくれなくなるからね。
隠れて食べるようになる。誰も見てないところで。そっちのほうがよっぽど危ない。

……たしかに。

でも、それで詰まったら。私、止めなかったことを責められませんか。

その怖さは本物よ。私も持ってる。
だからね、ひとりで背負わないの。 先生に伝えて、ご家族と話して、記録に残す。そこまでやって、そのうえで一緒に決める。

それと、これは覚えておいてください。残された人が後悔しない過ごし方を、一緒に考えること。 それが在宅では大事だと言われています。

安全を最優先にした結果、ご本人が最後まで我慢して終わることもある。それが正解かどうかは、私たちには決められません。

……マンボ郎さん、本人の前で言うことじゃないって言ってました。

それ、拾ってきてください。ご本人が聞いていない場所で決まった話は、あとで必ずどこかで軋みます。
シジ美ちゃんの、今日の学び
- 止めても誤嚥はなくならない。減るのは食事による誤嚥だけ。そのうえ、食べないと弱っていく
- 食べられるかどうかを見る目安はある。ただし白黒をつける道具ではなく、次につなぐための入口
- 食べるか止めるかを決めるのは、私たちではない。危険を伝え、少しでも安全な方法を一緒に考えるところまで
ただ、家に戻ればラッ子さんは今日も食べる。
——じゃあ、どう食べてもらえばいいんだろう。
この章のQ&A
Q. ご本人に「これ食べたい」と言われたとき、その場にいるのは自分ひとりです。どう答えればいいですか。
その場で「いい」とも「だめ」とも言わなくていいというのが答えです。
まず聞きます。どれくらい食べたいのか、いつから食べていないのか、これまではどうだったのか。 それだけで、その場の空気は変わります。「聞いてもらえた」というだけで、隠れて食べる方向には行きません。
そのうえで返すなら、「一緒に考えたいので、先生にも聞いてみます」。判断を先送りしているのではなく、判断する人を増やしている。 そう伝われば、突き放したことになりません。
やってはいけないのは、その場で禁止することです。 権限の問題でもありますが、それ以上に、次から相談してもらえなくなるのが痛い。
Q. ご家族が、止められているものを出している場面に出くわしました。どう指摘すればいいですか。
指摘の前に、理由を聞いてください。 たいてい理由があります。本人が欲しがった、他に食べるものがなかった、以前は食べられていた、そもそも止められていると知らなかった。
知らなかったのなら、伝え方の問題です。誰が、いつ、どう伝えたかを確認するほうが先になります。
知っていて出していたのなら、そこには気持ちがあります。「食べさせてあげたい」を否定すると、その家には入れなくなります。やめさせるのではなく、安全に近づける。 小さく切る、そばで見る、量を決める。ゼロか百かにしないこと。
Q. 判断を先送りしているうちに、事故が起きたら。
その恐れは正当です。ごまかさずに書きます。
ただ、ひとりで抱えている状態こそが一番危ないというのが、この章の結論です。伝えるべき人に伝え、話し合い、記録に残す。そこまでやったうえで起きたことと、黙って先送りして起きたことは、まったく違います。
そして、判断しないことも判断です。 決めずに置いておくと、いずれ誰かが勝手に決めます。多くの場合、それはご家族です。その重さを家族にひとりで背負わせないために、こちらから話を持ち出す——それがこの章のやることになります。

次回は、その先です。食べると決めたなら、どう食べてもらうか。
とろみ、姿勢、介助の手つき。家でずれやすいところを、ひとつずつ見ていきます。

※ 登場人物はすべて架空です。特定の利用者・ご家族をモデルにしたものではありません。
※ 医学的記述は参考資料に基づいています。個別の判断は主治医にご確認ください。
※ 嚥下の評価は、実施できる体制と指示のもとで行ってください。
※ 個別のご相談にはお答えできません。担当の主治医・訪問看護師にご相談ください。
参考にした資料
- 戸原玄「食べられるかどうかの見極め ~家でもできる摂食・嚥下機能評価~」PDN、2023年2月20日改訂
- 大阪国際がんセンター「誤嚥性肺炎を防ぐ 摂食・嚥下ケアと口腔ケア」
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021

