
前回、シジ美ちゃんの電話は空振りに終わりました。今回は、同じ人が、同じ観察を、言い方だけ変えて伝えます。
そして、伝える相手は主治医だけではありません。
この章で伝えたいこと
- 順番を先に決めておく。最後は何をしてほしいか
- 同じ内容でも、相手ごとに渡す形が変わる
- 誰に先に連絡するかは、事業所ごとに違う
なぜそう言えるのか、順番に見ていきます。
この資料について
訪問看護の現場でよくある場面を、会話形式でまとめた学習用の読み物です。登場人物はすべて架空です。
なお、新人看護師のシジ美ちゃんはひとりで訪問していますが、実際の新人教育は同行訪問から始まります。ここでは読みやすさのために、ひとりで伺う場面として書いています。
翌朝。事業所から、シジ美ちゃんは主治医に電話をかけた。

ラッ子さんの件です。平熱35度8分の方で、昨日37度5分、今朝は37度8分でした。
一昨日はトイレまで自力で往復できていましたが、昨日から行けていません。
背中の下のほうで断続性のラ音があります。前回の訪問時には聴取していません。
夕食は半分残しで、むせが2回。吸引で黄色い粘り気のある痰と、食べ物のかけらが引けました。
電話の向こうで、先生の返事が変わった。
「今日、往診に伺います」
(シジ美ちゃんの心の声)
昨日と、私が見たものは何も変わっていない。
変わったのは、言い方だけだ。
事業所で。

シャチ子さん、伝わりました。往診に来てくださるそうです。

よかった。それで、次にやることは分かりますか。

……先生に伝えたので、終わりじゃないんですか。

まだです。同じ内容を、あと3か所に渡します。
順番を決めておく

その前にひとつ。今の電話、うまくいった理由が分かりますか。

……順番、ですか。悪くなったところから先に言いました。

そうです。順番を先に決めておくと楽になります。 前にお話しした、SBARという型ですね。
Sは状況。今どうなっているか。Bは背景。既往や飲んでいるお薬。Aは評価。何を疑っているか。Rは提案。何をしてほしいか。

提案まで、していいんですか。

していいです。「往診をお願いできますか」「救急搬送が必要かどうか、ご判断をお願いします」。
言わないと、先生の側で判断材料がひとつ欠けます。

新人が一番飛ばすのがRよ。遠慮しちゃって。でも先生からしたら「で、何してほしいの」ってなるからね。

……私、まさに言ってませんでした。
相手が変われば、形が変わる

先生に伝えたら、それで終わりですか。

いいえ。同じ内容を、相手ごとに形を変えて渡します。
管理者には、先生に報告した内容とほぼ同じものを共有する。事業所としても情報共有しておく必要があるので。
ケアマネジャーには、噛み砕いて。そして今後どうなりそうかまで伝えて、対応を相談する。

今の状態を伝えるだけじゃなくて、ですか。

そうです。現状報告ではなく、見通しの共有。 それが届いていないと、サービスの調整が後手になります。
ちょうど、ケアマネジャーのセイ内田さんが事業所に立ち寄っていた。

こんにちは。……すみません、お話が聞こえてしまって。

セイ内田さん。ちょうどよかった。ケアマネさんの立場から、どうですか。

ありがたいですよ、それ。悪くなってから聞かされると、こちらは何も間に合わないので。
サービスを増やすにしても、区分を変えるにしても、時間がかかりますから。

……先に言っておくと、間に合うことがあるんですね。

そしてご家族には、行動に変えて渡す。 何を見ていてもらって、どうなったら連絡してもらうか。

同じことを話してるのに、全然ちがう。

それをみんな無意識にやってるのよ。だから新人に教えられないの。
誰に、先に

シジ美ちゃん。うちの事業所の決まりごと、覚えてる?

えっと……先生が先、ですよね。

そう。基本はそれ。ただ、そのあとがちょっとあるのよ。

整理しておきましょうか。うちはこんな感じの決まりになっていますよね。
シジ美ちゃんたちの事業所の決まりごと
■ 原則
訪問看護は、主治医の訪問看護指示書にもとづいて動いている。だから、まず主治医に報告する。
■ 実際
- タイムリー性で考えれば、管理者よりも主治医への連絡が先
- ただしケースバイケース。慣れないうちは、一度管理者を通して内容が適切か確認するという判断もある
- 主治医に報告した時点で状態が著しく悪ければ、その場で救急要請になることもある
※ これは、あくまでシジ美ちゃんたちの事業所の決まりごとです。
※ 急変時に「誰へ」「どの順で」連絡するかは、事業所ごとに違います。
※ 必ず、ご自分の事業所の運営規程と、利用者ごとの契約内容を確認してください。

念のためですが、これはうちのやり方であって、どこでも同じではありません。

そうなんですか。決まってるものだと思ってました。

事業所ごとに違います。だからこそ、自分の事業所の決まりを、平時のうちに読んでおいてください。

先生に連絡がつかないときは、どうすればいいんですか。

それ、いい質問。……で、あなたの事業所ではどう決まってる?

……知らないです。

でしょうね。それ、慌ててるときに考えることじゃないのよ。

それと、慌ててしまって状態の確認がうまくできないとき。まず管理者に電話して指示を仰ぐという手があります。
管理者と一緒に状況を整理していくうちに、落ち着きを取り戻せることがある。これは一般にも勧められている対処です。

一人で抱えないことよ。訪問看護は現場に一人だけど、電話の向こうには人がいるんだから。
シジ美ちゃんの、今日の学び
- 順番を決めておく。状況、背景、評価、そして何をしてほしいか
- 同じ内容でも、管理者・ケアマネジャー・家族で渡す形が変わる
- 誰に先に連絡するかは、事業所ごとに違う。慌てているときに考えることではない
そして、宿題がひとつ増えた。
——先生に連絡がつかないとき、私はどこまで動いていいことになっているんだろう。
この章のQ&A
Q. 夜中にご家族から電話が来ることがあります。新人が受ける日もある。何を聞き取れば、上や医師につなげられますか。
その場で判断しなくていいというのが出発点です。聞き取るのは判断材料であって、判断そのものではありません。
最低限、この4つ。いつからか/今どうか/いつもと何が違うか/今すぐ困っていることは何か。 呼吸の様子(苦しそうか、ゼーゼーいうか)と、意識の様子(呼びかけに答えるか)は必ず。
そして電話を切る前に、次にどうするかを必ず伝えます。「確認して折り返します、10分以内にかけます」でいい。保留のまま切らない。 ご家族が一番不安なのは、待つ時間が見えないことです。
Q. 連絡しづらい主治医もいます。理想論では回りません。
これは現実です。ただ、連絡しづらさの中身は分けられます。
つながらないのか、反応が薄いのか、機嫌が悪いのか。 つながらないなら、事業所として連絡手段を決めておく話になります。反応が薄いなら、この章でやった「差分で伝える」が効きます。動かないのではなく、動く材料が届いていないことがある。
機嫌の問題なら、それは個人で抱える話ではありません。管理者を通す。 そのための報告先の一本目に管理者を置く、という運用もありえます。
Q. 救急要請の判断をご家族に聞かれたら、何と答えればいいですか。
「決めるのはご家族です」で突き放すのは違います。かといって、看護師が単独で決めることでもありません。
答え方としては、判断の材料を渡す形になります。今どういう状態か、何が心配か、このまま様子を見た場合に起こりうること。そのうえで「私はこう思います」まで言う。意見を言うことと、決定することは別です。
そして、この会話は起きてからでは遅い。 落ち着いているうちに、どうなったら救急を呼ぶかをご家族と話しておく。それが第8章の話になります。

次回は、いちばん重い問いに入ります。誤嚥するなら、食べるのをやめれば安全になるのか。
答えは単純ではありません。止めた先に何が起きるかを、正面から扱います。

※ 登場人物はすべて架空です。特定の利用者・ご家族をモデルにしたものではありません。
※ シジ美ちゃんたちの事業所の運用に関する記述は、他の事業所には当てはまりません。必ずご自分の事業所の運営規程をご確認ください。
※ 医学的記述は参考資料に基づいています。個別の判断は主治医にご確認ください。
※ 制度・加算に関する記述は、改定により変わります。
※ 個別のご相談にはお答えできません。担当の主治医・訪問看護師にご相談ください。
参考にした資料
- アスエイド「訪問看護における救急対応、医師への報告のポイント」(2025年2月18日)
- アスエイド「訪問看護師と医師との連携について」
- アスエイド「訪問看護の緊急訪問とは?」

