誰に、どう届けるか|訪問看護のための病態のはなし #5

誤嚥性肺炎
ツナ太郎
ツナ太郎

前回、シジ美ちゃんの電話は空振りに終わりました。今回は、同じ人が、同じ観察を、言い方だけ変えて伝えます。

そして、伝える相手は主治医だけではありません。

この章で伝えたいこと

  • 順番を先に決めておく。最後は何をしてほしいか
  • 同じ内容でも、相手ごとに渡す形が変わる
  • 誰に先に連絡するかは、事業所ごとに違う

なぜそう言えるのか、順番に見ていきます。

この資料について

訪問看護の現場でよくある場面を、会話形式でまとめた学習用の読み物です。登場人物はすべて架空です。

なお、新人看護師のシジ美ちゃんはひとりで訪問していますが、実際の新人教育は同行訪問から始まります。ここでは読みやすさのために、ひとりで伺う場面として書いています。


翌朝。事業所から、シジ美ちゃんは主治医に電話をかけた。

シジ美
シジ美

ラッ子さんの件です。平熱35度8分の方で、昨日37度5分、今朝は37度8分でした。

一昨日はトイレまで自力で往復できていましたが、昨日から行けていません。

背中の下のほうで断続性のラ音があります。前回の訪問時には聴取していません。

夕食は半分残しで、むせが2回。吸引で黄色い粘り気のある痰と、食べ物のかけらが引けました。

電話の向こうで、先生の返事が変わった。

「今日、往診に伺います」

(シジ美ちゃんの心の声)

昨日と、私が見たものは何も変わっていない。

変わったのは、言い方だけだ。


事業所で。

シジ美
シジ美

シャチ子さん、伝わりました。往診に来てくださるそうです。

シャチ子
シャチ子

よかった。それで、次にやることは分かりますか。

シジ美
シジ美

……先生に伝えたので、終わりじゃないんですか。

シャチ子
シャチ子

まだです。同じ内容を、あと3か所に渡します。

順番を決めておく

シャチ子
シャチ子

その前にひとつ。今の電話、うまくいった理由が分かりますか。

シジ美
シジ美

……順番、ですか。悪くなったところから先に言いました。

シャチ子
シャチ子

そうです。順番を先に決めておくと楽になります。 前にお話しした、SBARという型ですね。

Sは状況。今どうなっているか。Bは背景。既往や飲んでいるお薬。Aは評価。何を疑っているか。Rは提案。何をしてほしいか。

※ 第4章

シジ美
シジ美

提案まで、していいんですか。

シャチ子
シャチ子

していいです。「往診をお願いできますか」「救急搬送が必要かどうか、ご判断をお願いします」。

言わないと、先生の側で判断材料がひとつ欠けます。

ウツボ
ウツボ

新人が一番飛ばすのがRよ。遠慮しちゃって。でも先生からしたら「で、何してほしいの」ってなるからね。

シジ美
シジ美

……私、まさに言ってませんでした。

相手が変われば、形が変わる

シジ美
シジ美

先生に伝えたら、それで終わりですか。

シャチ子
シャチ子

いいえ。同じ内容を、相手ごとに形を変えて渡します。

管理者には、先生に報告した内容とほぼ同じものを共有する。事業所としても情報共有しておく必要があるので。

ケアマネジャーには、噛み砕いて。そして今後どうなりそうかまで伝えて、対応を相談する。

シジ美
シジ美

今の状態を伝えるだけじゃなくて、ですか。

シャチ子
シャチ子

そうです。現状報告ではなく、見通しの共有。 それが届いていないと、サービスの調整が後手になります。

ちょうど、ケアマネジャーのセイ内田さんが事業所に立ち寄っていた。

セイ内田
セイ内田

こんにちは。……すみません、お話が聞こえてしまって。

シャチ子
シャチ子

セイ内田さん。ちょうどよかった。ケアマネさんの立場から、どうですか。

セイ内田
セイ内田

ありがたいですよ、それ。悪くなってから聞かされると、こちらは何も間に合わないので。

サービスを増やすにしても、区分を変えるにしても、時間がかかりますから。

シジ美
シジ美

……先に言っておくと、間に合うことがあるんですね。

シャチ子
シャチ子

そしてご家族には、行動に変えて渡す。 何を見ていてもらって、どうなったら連絡してもらうか。

シジ美
シジ美

同じことを話してるのに、全然ちがう。

ウツボ
ウツボ

それをみんな無意識にやってるのよ。だから新人に教えられないの。

誰に、先に

ウツボ
ウツボ

シジ美ちゃん。うちの事業所の決まりごと、覚えてる?

シジ美
シジ美

えっと……先生が先、ですよね。

ウツボ
ウツボ

そう。基本はそれ。ただ、そのあとがちょっとあるのよ。

シャチ子
シャチ子

整理しておきましょうか。うちはこんな感じの決まりになっていますよね。

シジ美ちゃんたちの事業所の決まりごと

■ 原則

訪問看護は、主治医の訪問看護指示書にもとづいて動いている。だから、まず主治医に報告する。

■ 実際

  • タイムリー性で考えれば、管理者よりも主治医への連絡が先
  • ただしケースバイケース。慣れないうちは、一度管理者を通して内容が適切か確認するという判断もある
  • 主治医に報告した時点で状態が著しく悪ければ、その場で救急要請になることもある

※ これは、あくまでシジ美ちゃんたちの事業所の決まりごとです。

※ 急変時に「誰へ」「どの順で」連絡するかは、事業所ごとに違います。

※ 必ず、ご自分の事業所の運営規程と、利用者ごとの契約内容を確認してください。

シャチ子
シャチ子

念のためですが、これはうちのやり方であって、どこでも同じではありません。

シジ美
シジ美

そうなんですか。決まってるものだと思ってました。

シャチ子
シャチ子

事業所ごとに違います。だからこそ、自分の事業所の決まりを、平時のうちに読んでおいてください。

シジ美
シジ美

先生に連絡がつかないときは、どうすればいいんですか。

ウツボ
ウツボ

それ、いい質問。……で、あなたの事業所ではどう決まってる?

シジ美
シジ美

……知らないです。

ウツボ
ウツボ

でしょうね。それ、慌ててるときに考えることじゃないのよ。

シャチ子
シャチ子

それと、慌ててしまって状態の確認がうまくできないとき。まず管理者に電話して指示を仰ぐという手があります。

管理者と一緒に状況を整理していくうちに、落ち着きを取り戻せることがある。これは一般にも勧められている対処です。

ウツボ
ウツボ

一人で抱えないことよ。訪問看護は現場に一人だけど、電話の向こうには人がいるんだから。


シジ美ちゃんの、今日の学び

  1. 順番を決めておく。状況、背景、評価、そして何をしてほしいか
  2. 同じ内容でも、管理者・ケアマネジャー・家族で渡す形が変わる
  3. 誰に先に連絡するかは、事業所ごとに違う。慌てているときに考えることではない

そして、宿題がひとつ増えた。

——先生に連絡がつかないとき、私はどこまで動いていいことになっているんだろう。


この章のQ&A

Q. 夜中にご家族から電話が来ることがあります。新人が受ける日もある。何を聞き取れば、上や医師につなげられますか。

その場で判断しなくていいというのが出発点です。聞き取るのは判断材料であって、判断そのものではありません。

最低限、この4つ。いつからか/今どうか/いつもと何が違うか/今すぐ困っていることは何か。 呼吸の様子(苦しそうか、ゼーゼーいうか)と、意識の様子(呼びかけに答えるか)は必ず。

そして電話を切る前に、次にどうするかを必ず伝えます。「確認して折り返します、10分以内にかけます」でいい。保留のまま切らない。 ご家族が一番不安なのは、待つ時間が見えないことです。

Q. 連絡しづらい主治医もいます。理想論では回りません。

これは現実です。ただ、連絡しづらさの中身は分けられます。

つながらないのか、反応が薄いのか、機嫌が悪いのか。 つながらないなら、事業所として連絡手段を決めておく話になります。反応が薄いなら、この章でやった「差分で伝える」が効きます。動かないのではなく、動く材料が届いていないことがある。

機嫌の問題なら、それは個人で抱える話ではありません。管理者を通す。 そのための報告先の一本目に管理者を置く、という運用もありえます。

Q. 救急要請の判断をご家族に聞かれたら、何と答えればいいですか。

「決めるのはご家族です」で突き放すのは違います。かといって、看護師が単独で決めることでもありません。

答え方としては、判断の材料を渡す形になります。今どういう状態か、何が心配か、このまま様子を見た場合に起こりうること。そのうえで「私はこう思います」まで言う。意見を言うことと、決定することは別です。

そして、この会話は起きてからでは遅い。 落ち着いているうちに、どうなったら救急を呼ぶかをご家族と話しておく。それが第8章の話になります。


ツナ太郎
ツナ太郎

次回は、いちばん重い問いに入ります。誤嚥するなら、食べるのをやめれば安全になるのか。

答えは単純ではありません。止めた先に何が起きるかを、正面から扱います。

食べるのを止めれば、安全になるのか|訪問看護のための病態のはなし #6
誤嚥するなら食べるのを止めればいい——それは本当でしょうか。止めても唾液の誤嚥は残り、そのうえ弱っていきます。決めるのは誰なのかまで考えます。

※ 登場人物はすべて架空です。特定の利用者・ご家族をモデルにしたものではありません。

※ シジ美ちゃんたちの事業所の運用に関する記述は、他の事業所には当てはまりません。必ずご自分の事業所の運営規程をご確認ください。

※ 医学的記述は参考資料に基づいています。個別の判断は主治医にご確認ください。

※ 制度・加算に関する記述は、改定により変わります。

※ 個別のご相談にはお答えできません。担当の主治医・訪問看護師にご相談ください。

参考にした資料

  • アスエイド「訪問看護における救急対応、医師への報告のポイント」(2025年2月18日)
  • アスエイド「訪問看護師と医師との連携について」
  • アスエイド「訪問看護の緊急訪問とは?」
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