食べるのを止めれば、安全になるのか|訪問看護のための病態のはなし #6

誤嚥性肺炎
ツナ太郎
ツナ太郎

「もう食べないほうがいいですよね」。訪問先で、いちばんよく聞かれる相談かもしれません。

今回はその問いに、正面から答えます。止めれば、本当に安全になるのか。

この章で伝えたいこと

  • 止めても誤嚥はなくならない。減るのは食事による誤嚥だけ
  • 食べられるかを見る目安はある。ただし白黒をつける道具ではない
  • 食べるか止めるかを決めるのは、私たちではない

なぜそう言えるのか、順番に見ていきます。

この資料について

訪問看護の現場でよくある場面を、会話形式でまとめた学習用の読み物です。登場人物はすべて架空です。

なお、新人看護師のシジ美ちゃんはひとりで訪問していますが、実際の新人教育は同行訪問から始まります。ここでは読みやすさのために、ひとりで伺う場面として書いています。


ひと月後。ラッ子さんは肺炎まではいかずに持ちこたえ、家で過ごしている。

ラッ子
ラッ子

あのね、お団子は、もう食べたらいけないんでしょうかね。

シジ美
シジ美

お団子、ですか。

ラッ子
ラッ子

孫が来たときにね、一緒に食べるのが楽しみだったもんですから。

マンボ郎
マンボ郎

やめたほうがいいですよね。詰まったりしたら、それこそ大変ですし。

マンボ郎
マンボ郎

……まあ、本人の前で言うことじゃないんでしょうけど。

ラッ子
ラッ子

いいんですよ。分かってますから。

シジ美
シジ美

……ええと。先生に確認してからのほうが、いいと思います。

(シジ美ちゃんの心の声)

止めたほうが安全なのは分かる。

でも、それを私が言っていいんだろうか。


事業所に戻って。

シジ美
シジ美

シャチ子さん。お団子はやめたほうがいいですよね。詰まったら大変ですし。

シャチ子
シャチ子

その判断が正しいこともあります。ただ、ひとつ聞かせてください。

止めたら、それで安全になりますか。

シジ美
シジ美

……えっ。食べなければ、誤嚥はしないんじゃ。

シャチ子
シャチ子

前にお話ししましたよね。ラッ子さんは入院中、何も食べていないのに熱が出ました。

※ 第1章

シジ美
シジ美

……唾液。

シャチ子
シャチ子

そうです。食べるのを止めても、誤嚥はなくなりません。 減るのは、食事による誤嚥だけです。

ウツボ
ウツボ

そのうえ食べなくなると痩せる。痩せると力が落ちる。力が落ちると、もっとむせるようになる。

私、何人も見てきたわよ。安全のために止めて、そのまま弱っていった人。

シジ美
シジ美

……守ったつもりで、奪っちゃってたかもしれないんですね。

シャチ子
シャチ子

だから、問いを2つに分けます。

ひとつ、止めたら本当に安全になるのか。 もうひとつ、仮に安全になるとして、それでよいのか。

食べられるかどうかを、何で見るか

シジ美
シジ美

じゃあ、食べていいかどうかって、どうやって決めるんですか。

シャチ子
シャチ子

大きくは2つ挙げられています。目が覚めているかと、栄養状態が極端に悪くないか。

シジ美
シジ美

シンプルなんですね。

シャチ子
シャチ子

細かく見ると、もう少しあります。簡単な刺激で目を覚ますか。声がきれいに出るか。唾をゴクンと飲めるか。

それと、痰が常時出続けていないか。異常な頻脈や発熱がないか。

シジ美
シジ美

全部そろってないと、だめですか。

シャチ子
シャチ子

いいえ。そろっていないと評価できない、という意味ではありません。 そろっているほうが先へ進みやすい、という目安です。

ウツボ
ウツボ

条件を並べられると「該当しないから無理」って結論にしがちなのよ。そうじゃないからね。

家でもできる評価がある

シャチ子
シャチ子

簡単なものを2つ紹介します。ひとつは、30秒間で唾を何回飲み込めるかを見るもの。

シジ美
シジ美

数えるだけ、ですか。

シャチ子
シャチ子

喉仏に指を当てて、上下する回数を数えます。30秒で3回以上飲めれば、誤嚥の可能性は低いとされています。

道具が要らず、ご家族がやっても危険がありません。 そこが利点です。

シジ美
シジ美

弱点はありますか。

シャチ子
シャチ子

「飲んでください」の指示が伝わらない方には実施できません。認知症が進んだ方などですね。

もうひとつは、少量の水を飲んでもらうもの。むせ、声がガラガラにならないか、呼吸が変わらないか、ゼーゼーいわないかを見ます。

ウツボ
ウツボ

念のため言っておくけど、これで白黒つくわけじゃないからね。 疑ったら次につなぐ、そのための入口よ。

シャチ子
シャチ子

そのとおりです。ちなみに、むせないタイプの誤嚥を調べる咳テストという方法もありますが、器材と実施体制が要ります。

訪問看護が独自に始めるものではありません。疑ったら、評価できる先につなぐ。 そこが現実的な立ち位置です。

それで、お団子は

シジ美
シジ美

それで、ラッ子さんのお団子は。

シャチ子
シャチ子

それは、私たちが決めることではありません。

シジ美
シジ美

えっ。

シャチ子
シャチ子

私たちができるのは、危険がどれくらいあるかを伝えることと、少しでも安全に食べる方法を一緒に考えることです。

小さく切る。飲みものと交互にする。誰かがそばにいる時間に食べる。座って、顎を引いて。

ウツボ
ウツボ

「食べちゃだめ」って言うのは簡単なのよ。でもそれ言った瞬間、次から相談してくれなくなるからね。

隠れて食べるようになる。誰も見てないところで。そっちのほうがよっぽど危ない。

シジ美
シジ美

……たしかに。

シジ美
シジ美

でも、それで詰まったら。私、止めなかったことを責められませんか。

ウツボ
ウツボ

その怖さは本物よ。私も持ってる。

だからね、ひとりで背負わないの。 先生に伝えて、ご家族と話して、記録に残す。そこまでやって、そのうえで一緒に決める。

シャチ子
シャチ子

それと、これは覚えておいてください。残された人が後悔しない過ごし方を、一緒に考えること。 それが在宅では大事だと言われています。

シャチ子
シャチ子

安全を最優先にした結果、ご本人が最後まで我慢して終わることもある。それが正解かどうかは、私たちには決められません。

シジ美
シジ美

……マンボ郎さん、本人の前で言うことじゃないって言ってました。

シャチ子
シャチ子

それ、拾ってきてください。ご本人が聞いていない場所で決まった話は、あとで必ずどこかで軋みます。


シジ美ちゃんの、今日の学び

  1. 止めても誤嚥はなくならない。減るのは食事による誤嚥だけ。そのうえ、食べないと弱っていく
  2. 食べられるかどうかを見る目安はある。ただし白黒をつける道具ではなく、次につなぐための入口
  3. 食べるか止めるかを決めるのは、私たちではない。危険を伝え、少しでも安全な方法を一緒に考えるところまで

ただ、家に戻ればラッ子さんは今日も食べる。

——じゃあ、どう食べてもらえばいいんだろう。


この章のQ&A

Q. ご本人に「これ食べたい」と言われたとき、その場にいるのは自分ひとりです。どう答えればいいですか。

その場で「いい」とも「だめ」とも言わなくていいというのが答えです。

まず聞きます。どれくらい食べたいのか、いつから食べていないのか、これまではどうだったのか。 それだけで、その場の空気は変わります。「聞いてもらえた」というだけで、隠れて食べる方向には行きません。

そのうえで返すなら、「一緒に考えたいので、先生にも聞いてみます」。判断を先送りしているのではなく、判断する人を増やしている。 そう伝われば、突き放したことになりません。

やってはいけないのは、その場で禁止することです。 権限の問題でもありますが、それ以上に、次から相談してもらえなくなるのが痛い。

Q. ご家族が、止められているものを出している場面に出くわしました。どう指摘すればいいですか。

指摘の前に、理由を聞いてください。 たいてい理由があります。本人が欲しがった、他に食べるものがなかった、以前は食べられていた、そもそも止められていると知らなかった。

知らなかったのなら、伝え方の問題です。誰が、いつ、どう伝えたかを確認するほうが先になります。

知っていて出していたのなら、そこには気持ちがあります。「食べさせてあげたい」を否定すると、その家には入れなくなります。やめさせるのではなく、安全に近づける。 小さく切る、そばで見る、量を決める。ゼロか百かにしないこと。

Q. 判断を先送りしているうちに、事故が起きたら。

その恐れは正当です。ごまかさずに書きます。

ただ、ひとりで抱えている状態こそが一番危ないというのが、この章の結論です。伝えるべき人に伝え、話し合い、記録に残す。そこまでやったうえで起きたことと、黙って先送りして起きたことは、まったく違います。

そして、判断しないことも判断です。 決めずに置いておくと、いずれ誰かが勝手に決めます。多くの場合、それはご家族です。その重さを家族にひとりで背負わせないために、こちらから話を持ち出す——それがこの章のやることになります。


ツナ太郎
ツナ太郎

次回は、その先です。食べると決めたなら、どう食べてもらうか。

とろみ、姿勢、介助の手つき。家でずれやすいところを、ひとつずつ見ていきます。

食べ方を、どう整えるか|訪問看護のための病態のはなし #7
とろみの濃さが毎回違うのは、ご家族の不注意でしょうか。家でずれる3つの理由と、飲まれなくなったときに起きること。姿勢と介助は、その場で変えられます。

※ 登場人物はすべて架空です。特定の利用者・ご家族をモデルにしたものではありません。

※ 医学的記述は参考資料に基づいています。個別の判断は主治医にご確認ください。

※ 嚥下の評価は、実施できる体制と指示のもとで行ってください。

※ 個別のご相談にはお答えできません。担当の主治医・訪問看護師にご相談ください。

参考にした資料

  • 戸原玄「食べられるかどうかの見極め ~家でもできる摂食・嚥下機能評価~」PDN、2023年2月20日改訂
  • 大阪国際がんセンター「誤嚥性肺炎を防ぐ 摂食・嚥下ケアと口腔ケア」
  • 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021
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